[科学哲学] 生命宇宙論 – 科学的宇宙論(4)

ミクロの世界へ
さて、この宇宙にはさまざまな物質や相互作用があります。少なくとも、全ての物質的存在は、そこにある法則によって支配されているに違いありません。ここからは、その物質の基本要素となる素粒子、また、それらがどのように作用しあっているかを見ていくことにします。
気の遠くなるくらい広大な宇宙。その宇宙と、ミクロの世界の素粒子とはまるで無縁のように思われるかもしれません。しかし、素粒子の世界を見ることと宇宙を見ることというのは、実に密接な関係にあるといえるのです。実際に1970年以降になると、素粒子物理の研究と宇宙物理の研究が共同で行われはじめています。
このような背景には、”ビッグバン”の概念の登場があります。現在宇宙は膨張している。ならば、かつては宇宙はただ一点に集約していた、と考えることができます。これは、宇宙は、かつて、素粒子やそれ以下のサイズの超ミクロ世界であった、ということになるわけです。そのような世界では、マクロを語る物理学より、ミクロ世界を語る素粒子物理学、主に量子力学によってよく説明されるのです。
宇宙は主に天体観測によって事実を知ることができますが、ミクロ世界の現象は、ある程度であれば実験室でも再現することができます。宇宙初期に於いて、宇宙は極めて高温高密度の高いエネルギー状態であったと考えられています。そのような状態では、現在物質を構成している分子や原子ですらその形をとどめていることはできません。原子は、電子と原子核に、原子核は陽子と中性子に、それらの陽子や中性子は、さらにそれを構成するクォークに分かれ、それぞれがてんでバラバラに存在していた、とされています。原子を分解して素粒子を単独で存在させるような実験は、素粒子を超高速に加速する加速器の中で行われます。
例えば、誕生からプランク時間(10-43秒)経過した頃の宇宙のエネルギーというのは、大体1019GeV(1eVは、1Vの電位差によって電子一つが得るエネルギー)にもなります。このような状態では、素粒子は陽子や中性子などという形態さえとることができません。それぞれが全く勝手に運動しているような状態です。つまり、加速器によってそのような状態をつくり出してやろうというのです。
加速器の原理というのは、大体次のようなものです。巨大なリング状のトンネル(中は真空)に、光速近くまで加速した粒子を2つ、お互いに反対方向へ発射する。すると、その粒子同士が正面衝突したとき、そのエネルギーによって新たな粒子を生成する。実際には、元になった粒子が分解されるということになります。現存する素粒子の加速器で最大に加速しても、およそ103GeV程度だといわれていますが、現在アメリカで建設中の加速器(LHC:大型ハドロン衝突型加速器)では、それ以上のエネルギーが見込まれており、宇宙誕生の10-12秒後の状態が再現できるとされていいます。このような加速器は初期宇宙を研究する重要なファクターであるといえます。


力と物質と
現在の物理学では、物質を構成する最も基本的な要素が素粒子である、とされています。もうそれ以上分けることができない究極の粒子が素粒子、ということですが、実際、本当にそれが究極であるか、という議論はまだ尽くされていません。ここでは、現状の物理学の標準的な考え方に沿って見ていくことにします。
量子力学で扱われる素粒子は、大きく二種類に分けられます。一つは、物質の構成要素となっているクォーク、レプトン、いま一つは、それらの構成要素同士の間で力を媒介しているといわれているゲージ粒子です(場の量子論では、ゲージ粒子の他に力の原因となっている粒子としてヒッグス粒子というものが仮定されている)。例えば、電子やニュートリノなどは実際に物質の構成要素となっているので前者、光子やボソンなどは力の媒介役としての粒子、後者です。これらの素粒子が相互作用することで、私たちが目にするような現象や物体が成立している、ということになります。
ところで、現在物理学で考えられている力は、次にあげる四つがあります。それは、強い力、弱い力、電磁気力、重力です。標準理論では、これらの力はいずれもゲージ粒子と呼ばれる粒子によって媒介される、とされています。ではそれぞれの特徴を見てみましょう。
まず、強い力。これは、クォーク同士を結びつける力で、主に原子核の形成に重要な役割を果たしています。名前から分かるように、四つの力のうちで最も強いのですが、その及ぶ範囲は10-13センチ以内と極めて短いものです。この力を媒介するゲージ粒子はグルーオンと呼ばれています。
次に、弱い力。これは、主に中性子などの素粒子の崩壊に関わっているとされている力で、原子核の崩壊に大きく関わっています。力の強さは四つの内3番目ということになります。この力は、基本的に全ての物質対して働きますが、その及ぶ範囲がやはり短く、10-13センチです。この力を媒介する素粒子はウィークボゾン(W+ボゾン、W-ボゾン、Z0ボゾン)といわれています。
そして、電磁気力。これは、荷電粒子に対して働く力で、2番目に強い力です。この力は距離の二乗に反比例して小さくなっていきますが、その及ぶ範囲は無限遠です。この力を媒介するゲージ粒子は、お馴染みの光子です。
最後に、重力。おそらくこれが一番なじみ深い力ではないでしょうか。これは、説明するまでもなく、全ての物質に対して働く力で、その強さは万有引力の法則に従います。強さは、4つのうちで最も小さいことになりますが、その及ぶ範囲は、電磁気力と同様に無限遠です。この力を媒介しているゲージ粒子は、量子力学ではグラビドン(重力子)であるとされています。これについてはまだはっきり分かっておらず(グラビトンなどというゲージ粒子は、その存在が確認されていない)、実際、現時点で重力というのは、ゲージ粒子による力の媒介よりも、相対論的な解釈(時空の歪み)による説明の方が一般的です。
以上、これら四つの力によって全ての現象が支配されている、ということになります。
では、そのゲージ粒子は、どうやって空間を伝達することができるのでしょうか。そもそも、ゲージ粒子というのは”粒子”という名がついていますが、単なる粒ではありません。これは、やはり量子力学的な考え方、つまり”量子場”という観点で見た場合の粒子なので、単純にキャッチボールをしていると考えるのでは、やはり都合が悪いです。ここでいう”場”とは、要するに、ゲージ粒子が伝達する媒質のようなものです。そうはいっても、実際にそのような媒質が存在しているわけではありません。実際には何もないのだけど、そこに”場”という概念を考慮することでうまくその伝達を説明できるのです。
仮に、伝達するための媒質がある場合を考えてみます。例えば、水という媒質を波が伝播する様子を考えてみましょう。水面を波が進行する原理は、おそらく理解できると思います。これは、水そのものが移動しているわけではなく、水の振動(上下運動)が次々と前方へ伝達することで、その”波”がその方法へ進むのですね。注意したいのは、その方向へ媒質そのものは移動しない、ということです。水面のある一点は、どこかからやってきた振動を受けて上下に動く。上に動いたらそのままでなく、必ず元に戻ろうとする力が働く。だから、今度は下へ動く。この繰り返しが波をつくるのであり、この波が移動するのです。
媒質である水分子が上下に単振動することで、水面波の山と谷をつくっている。これは理解できるでしょう。ここで、その媒質を考えず、移動する”波”の方に注目してみます。つまり、媒質となっている水は考慮せず、実際に移動している波の”山の部分”を考えるのです。この”山の部分”を粒子とみなし、その振る舞いを考える。このような考え方は、連続した波という現象を粒子のように扱うことから”量子化”する、などといいます。そして量子力学では、この粒子(実際は波の性質をもつもの)を”波動関数”というもので表現します。量子力学でいう素粒子、とは、およそこのようなものだと考えれば良いです。
つまり、”水”のような媒質を仮想して粒子を考えるわけですね。そのような仮想的な媒質を”量子場”などと呼んでいるわけです。エーテルの蒸し返しではないか、とも思えますが、実際この量子場の理論は、エーテルを否定している相対論ともうまく折り合っています。現在、その”場”自体の正体はよくわかっていないのですが、これを仮想すれば、量子力学で現象をうまく説明できる、というわけです。
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