[科学哲学] 生命宇宙論 – 科学的宇宙論(3)

宇宙の年齢
宇宙の膨張速度を逆算すると、宇宙の年齢を導くこともできます。
ビッグバンモデルでは、ビッグバンの時点を宇宙時間ゼロの点(インフレーション理論では、ビッグバンは宇宙時間10-41秒とされていますが、マクロな宇宙年齢を考える際は、このような時間は無視しても良いでしょう)として考えます。例えば、距離 r における星(または銀河)の後退(膨張)速度を v とすると、その星は現在まで r/v だけの時間を過ごしてきていることになります。これは、ハッブルの法則(v=H0r)より 1/H0 に等しくなります(H0 は現在におけるハッブル定数)。この時間のことを”ハッブル時間”と呼び、宇宙が誕生時点からずっと変わらない割合で膨張していると考えたときの宇宙の年齢になります。
しかし、先にも述べてきたとおり、宇宙の膨張速度は一定ではありません。また、宇宙は現在、減速しながら膨張をしている、と考えられています。これは、宇宙には大小さまざまな天体が存在するので、それらの重力でお互いに引き合おうとする力、即ち、膨張を引き止めようとする力が働いているためであるとされています。このため、実際の宇宙の年齢はハッブル時間よりも大きい(長い)ことになります。ハッブル時間は、宇宙の年齢の最も大きな限界(上限)を示している、と考えるのが妥当でしょう。
また、この方法に従う限り、宇宙の年齢は、ハッブル定数によって変わります。現在、宇宙の年齢は50~200億年の間でさまざまに考えられていますが、これはハッブル定数がさまざまに考えられている、ということであるのです。当初、ハッブル定数は、約500 [km/sec/Mpc]ほどであると考えられていました。現在の最新理論では約71[km/sec/Mpc]ということで、宇宙の年齢もこのことから約120億年だろうと推定されています。ただ、これは観測方法によって異なってくることもあり、まだまだ確定することはできません。


宇宙の将来
宇宙は膨張している。では、その宇宙はこれからどうなっていくのでしょうか。
この仮説はいくつか考えられています。この膨張が止まることなく永遠に続く場合、膨張がいつか止まってそのまま定常状態となる場合、そして、膨張がいずれ収縮に転じる場合の三つのシナリオです。宇宙論では、永遠に膨張し続ける宇宙を”開いている宇宙”、膨張が止まる宇宙を”平坦な宇宙”、収縮に転じる宇宙を”閉じている宇宙”と表現します。これらは、いわゆる”フリードマンの宇宙モデル”といわれているものです。
さて、私たちの住むこの宇宙が、果たしてどの運命を辿ることになるのか、それは、宇宙に存在する物質の総量、つまり宇宙全体の質量により決定されます。宇宙には様々な形態で物質が存在しています。それは、何も銀河や恒星といった光る天体に限りません。私たちの目に見えない物質も、宇宙全体の質量を左右することになります。むしろ、現在では、見えている天体は、宇宙の質量のごく一部に過ぎないことが分かっていて、見えない質量の方を”ダークマター(暗黒物質)”と呼び、その正体の解明が現在世界中の研究者によって進められています。
では、宇宙が開いているか閉じているか、これを求める方法を簡単にお話しておきます。
開いている宇宙と閉じている宇宙、そのちょうど中間の宇宙、つまり、平坦な宇宙の質量が分かれば、実際の宇宙の物質の量が、それより多いか少ないかで決まることになりますね。この平坦な場合の宇宙の平均物質密度は、ハッブル定数を用いて 3H2/8πG (G は万有引力定数、πは円周率)と表されます。この物質密度のことを、”臨界密度”と呼びます。仮に、臨界密度をρ0 とします。これに対し、実際に観測される物質の質量から求められる密度を ρ とすると、ρ/ρ0が1より大きいか小さいか、ということで、宇宙の開閉を見ることができます。このρ/ρ0 の値のことを”密度パラメータ”と呼び、よくギリシャ文字の Ω(オメガ)で表記されます。
つまり、このΩが1より大きければ閉じた宇宙、Ωが1より小さければ開いた宇宙、そして、Ωがちょうど1であれば平坦な宇宙ということができます。私たちのこの宇宙は、現在のところ、実際に観測される物質の量が少ないので”開いた宇宙”ということになっています。ただ、まだまだ観測されていない物質は多くあるはずで、これからの宇宙観測において、その究明が求められています。
見えない宇宙
宇宙に存在する天体は全て私たちの目に見える姿で存在しているわけではありません。先にもお話した通り、むしろその多くは私たちに見えない天体であることがわかっています。その見えない天体は、その重力作用によって他の様々な天体に影響を及ぼしています。この影響を考えること抜きに、現在の銀河系全体の運動を説明することはできないでしょう。
私たちの銀河をはじめとする多くの銀河は、円盤が回るようにゆっくり回転しています。回転の周期は約2億5000万年とされています。中心からおよそ30kpc(キロパーセク)の位置にある私たちの太陽系の速度は秒速225kmで、この銀河誕生以来、既に20回転していることになります。ところで、この回転速度は銀河の中心付近でも外縁に近い部分(約30~50kpcあたりまで)でもほぼ一定であることが分かっています。つまり、銀河の回転速度は、中心からの距離に拠らずどの部分でも同じなのです。
太陽系での惑星の公転はケプラーの法則によって記述されますが、その公転速度は、半径(太陽からの距離)の平方根に反比例します(v2=MG/r [v: 回転速度 M: 太陽の質量 G: 万有引力定数] )。すなわち、太陽から遠い惑星ほど、その回転速度は遅いということです。銀河系の回転においても、銀河の質量の大部分がその中心に集中していると考えれば、中心に太陽がある太陽系と力学的に同じ運動が期待されます。ところが、実際はそうはなっていないのです。
では、固体のレコード盤のような状態を考えてみます。レコードの場合、回転速度は中心からの距離に比例して速くなります。これは、その角速度(毎秒の回転角度)は、レコードのどの部分においても同じだからです。しかし、銀河系の回転は、このパターンでもないことがわかっています。
では、銀河系はどのような構造に由来してそのような回転をしているのでしょうか?
銀河系は、ケプラーの法則から予想される運動にはなっていない。ということは、少なくとも太陽系のように、中心に銀河のほとんどの質量が集中している構造にはなっていない、といえます。つまり、銀河系では、かなり端の方までその質量が分布していると考える必要があります。銀河の回転速度を説明するには、少なくとも、現在見えている質量の10倍以上は質量が存在していなくてはなりません。
この見えない質量”ダークマター(暗黒物質)”は、銀河の回転だけでなく、多くの銀河が集団で存在しているという事実にも関係していると考えられています。この銀河の集団のことを”クラスター(銀河団)”と呼んでいます。そのクラスター同士もさらに集団で存在することが分かっており、これを”スーパークラスター(超銀河団)”と呼ぶようです。こうして、銀河同士がお互いに集まって集団をつくるのは、各銀河がお互いに引力(重力)を及ぼしあっているからです。ところが、その銀河の総質量(銀河内の見える質量と見えない質量の総和)を観測してみると、銀河同士が引き合うには、その質量が足りないことが分かっているのです。このことから、銀河と銀河の間にも見えない物質ダークマターが存在するのではないか、とされています。
ダークマターは、さらに大きな宇宙の構造にも関与していることがが予想されており、実際の宇宙は、現在見えている質量の100倍以上がダークマターで占められているのではないかと考えられています。さて、この見えない物質の正体は一体何なのでしょう?
ダークマターの候補として、現在大きく二種類の物質が考えられています。一方は”バリオン”と呼ばれる、主に私たちが普通に観測可能な物質。もう一方は”非バリオン”と呼ばれる、主に素粒子世界で考えられている物質です。
バリオンの候補としてまず思い浮かぶのは、ただ単に光を発しない天体、例えば、恒星になりそこねた星や、星としての寿命を終えた残骸(白色矮星、褐色矮星)などの天体があります。最近注目されているのは、MACHO(マッチョ)と呼ばれる天体です。これは、有質量小ハロー天体(MAssive Compact Halo Object)の略称ですが、これ自体の正体もまだはっきりしていません。ただ、太陽の10分の1程度の質量を持つ暗い天体だろうということは分かっています。他にも、ブラックホールがそこかしこに点在することで大きな質量をつくっているとも考えられます。ブラックホールなら、理論上矛盾を起こさず、非常に都合良く宇宙の質量を水増しできますが、そうであるという確かな証拠はありません。
そして、非バリオンの候補として現在最も有力視されているのは”ニュートリノ”です。ニュートリノには、これまで質量があるかどうかさえ分からない状態でしたが、最近、質量があるらしいという研究結果が報告され、この可能性も強くなりました。ニュートリノの他に非バリオンのダークマターとして考えられているのは”アクシオン”や”超対称性粒子”などがありますが、いずれもまだ理論上の仮想粒子であり、実際にその存在は確認されていません。
いずれにしても、ダークマターに関してはまだ不明なことが多く、逆に、この謎を解くことができたら、宇宙の謎は半分以上解けるともいわれています。
星の一生
星の誕生があれば、滅びもあります。太陽のように光る星(恒星)の一生とは、一体どのようなものなのでしょうか?
誕生した星は、主に”主系列星”として存在します。これは、星の進化の過程で原子核反応(核融合)を起こし、温度が上がった状態の星のことで、私たちがいつも見ている太陽や、夜空に輝く星たちは主系列星ということになります。ただ、同じ主系列星であっても、そのたどる一生は質量によって異なります。
比較的小さな星、太陽の約3倍以下の質量の星は、そのまま膨張し”赤色巨星”と呼ばれる状態になります。そして、そのまま静かに膨らみ”惑星状星雲”となります。その後は”白色矮星”、つまり、熱核反応を持続できなくなり量子力学的に完全に詰まった状態(白色矮星の内部では、炭素やヘリウムが原子の状態でぎっしり詰まっています。この程度の星では原子核の周囲の電子はお互い電気的に反発し合うので、電子同士でくっつくことはなく、原子はそのままつぶれることはありません)となった後、宇宙のチリとなるか、または、白色矮星を経ず、そのままガスやチリとして宇宙空間に拡散し、一生を終えます。
一方、太陽の3倍以上の質量を持つ星は、その質量が大きいために重力の収縮圧によって、ヘリウムの芯が静かに燃え始めます。これが太陽の8倍以下程度の星の場合、ヘリウムの燃えかすの炭素が中心にたまってくると、その重力を電子の反発力では支えきれなくなり縮み始めます。すると炭素に火がつき大爆発を起こします。これを”超新星爆発”と呼びます。
主系列星の質量が太陽の8倍以上になると、中心の炭素が鉄が出来るまで燃え続けた後、鉄の芯は重力収縮を続け、やがて、原子も原子核も崩壊して中性子の芯となり、超新星爆発を起こした後には”中性子星”が残留する形となります。さらに、主系列星の質量が、太陽の30倍以上にもなると、その重力が強すぎるために中性子の芯となった後も永久に収縮を続け、いずれはブラックホールになるだろうといわれています。超新星とは、星の生涯の最後を壮烈な爆発によって終えた星のことで、主にそれは星自身の質量による重力崩壊が原因となっています。
実は、こうした星の誕生、終焉の繰り返しによって、宇宙空間にさまざまな物質が合成されているのです。
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