昼間明るく、夜が暗い。あまりにあたりまえのことなので、普段誰も気になんかしちゃいないだろう。ときに、「何で夜は暗いの?」と聞かれて、皆さんならどう答えるだろうか?そんなあたりまえのこと今更聞くな、というところだろうが、実はこの問題は20世紀初頭まで解くことができなかった難問なのだ。今なら、小学生でも、地球は自転していて、太陽の陰になったら暗くなるのだ、ぐらいのことは答えられるだろう。しかし、実はこれでは答えになってはいない。何故かというと、宇宙に存在する恒星は太陽だけではないからだ。夜空を見上げれば分かるように、宇宙には無数の恒星が存在している。一番地球に近いのが太陽なのだというだけで、一番近い恒星にしか影響は受けない、などということはない。そう、見渡せる夜空の範囲を埋め尽くせるぐらいの恒星は、現に存在しているはずなのである。うっそうと木々が茂った密林を思い浮かべてみよう。林の奥の方を見通そうと努力しても、必ずその目線は木々のどれかにぶつかってしまう。結果、周りは木しか見えない状態になるはずである。宇宙にも同じことがいえるのではないだろうか?
遠すぎて光が届かないのだ、と考えてみる。何故届かないのか、という理由を考えると、途中ある物質にそのエネルギーが吸収されてしまうから、となるのだが、エネルギーは保存されるもので、エネルギーを吸収した物質はその熱によって発光し始めると考えられる。つまり、本来夜は明るいはずなのだ!眩しいくらいに無限の恒星に照り付けられているはず、なのにそうはなっていない。これを「オルバースのパラドックス」という。
回答として、一つには、宇宙は膨張をしているから、という事実があげられる。膨張しているということは、光源は常に私たちから遠ざかっているわけだ。この膨張速度は、地球からの距離が遠くなればなるほど(地球から見て)速くなることが知られている。これをハッブルの法則という。つまり、地球より遙か先では膨張速度が光速を超えていると考えられ、そこからの光は永遠に地球へ届くことはない。
宇宙が膨張しているということは、光のドップラー効果(実際は音のドップラー効果とは原理が少し違うが)を考慮する必要もある。つまり、光の波長は、光源となる星の後退によって次第に長くなっているのである。実際、宇宙の膨張という事実はこれによって明らかになった。波長が長くなれば光は赤みを増す(光の波長が長くなると赤くなる)。そして、いずれ赤外線よりも外の領域へ出る、つまり可視光でなくなるわけだ。そうなればその光は見えない。
この他にも、星の寿命は永遠ではない、という理由もある。星が永遠に光りつづけているものでなく、終焉を迎えるものであることで、永遠の光源というものは考えられなくなる。また、星と私たちの地球の間に光を遮る、あるいはその光を減衰させる要因(重力源や小惑星などの宇宙塵など)があるのではないか、とも考えられている。宇宙にはまだまだ謎が多い。経験的に当たり前だと思っていた身近なものでも、こうして宇宙論的な問題に発展することが多々である。